どうも、医学生シン(@BodymakeShin)です!
この記事では、最近読んだ小説『シャイロックの子供たち』の感想を書きました。
この本は、半沢直樹シリーズで有名な著者の作品です
この本を読んで真っ先に思ったことは、『パワハラといじめは別物だな』ということです。
あらすじ
池井戸潤氏の小説『シャイロックの子供たち』は、10個の短編がそれぞれ関連を持って纏まっている短編集です。それぞれの章で別視点に切り替わり、ある銀行の支店を舞台に人間的な葛藤や苦悩を描いています。
前半は舞台が同じなだけですが、後半に進むにしたがって、『現金紛失事件』や『ある銀行員の失踪事件』を軸に一つのミステリーとして物語が収束していきます。
叩き上げのコンプレックスやプライド、現代的な個人主義的価値観、出世への執着、そういった要素が複雑に絡み合い、守るものがいる人間の苦悩が描かれています。
この本の一推しポイント!
この本を読んで面白いと思ったのが、登場人物たちがほぼ全員しがらみ(≒家族)に縛られている点です。
まだ所帯を持っていない自分には到底実感できませんが、守り養わないといけない家族の存在は、頑張る力をくれるものでもあり、つらい状況から逃げることを許さない鎖でもあるように描かれています。
その鎖が銀行員たちの出世欲、もっと正確に言えば『出世しなくてはならないという義務感』を駆り立て、道を踏み外させたり、他者へ強い攻撃性を向けるきっかけになっています。
守りたいものの存在が時にプレッシャーとなり、視野を狭め、選択を誤らせる。こういった視点で見てみると、様々な登場人物への見方が変わります。
普通に読めば、つまり第三者目線でフラットに読めば、悪事がばれて窮地に立たされている人物に対して思うことはただ一つ『バカなことをしたなぁ』です
しかし、守りたいものは時に枷になるという視点でみると、いくらか同情的に見てしまいます。
私が思う、作中でも屈指で可哀そうなキャラクター(≠被害者)は『古川一夫』です。
古川は第1章『歯車じゃない』の主人公であり、子供の学費を稼ぐため、そして高卒でも出世できるのだという自己実現のために、とにかく実績を求めています。
また、昭和的なモーレツ仕事人間でもあり、令和の価値観とは少しそぐわないところもあります。
愛する家族と叩き上げとしてのプライド。この2つを守りたいものとして胸に抱えているため、古川はとんでもなく生きづらそうにしています。
家族のため、そして自分のプライドのために出世しなければならない、そのためには実績が欲しい。作中時間である銀行の副支店長である古川は、部下に無茶な目標を課し、それが達成できないととにかく怒鳴りつけます。
- 気に入らないことがあると、とにかく怒鳴りつける
- 部下への𠮟責中に人格否定を始める
いわゆるパワハラ上司として古川は部下から見限られ、他の人物の視点では『余計なこと言わないでくれ』的なことを思われて疎まれてしまいます。
家族と自分のプライドのため、出世は諦められない。しかし、そのための手段として、古川は部下を怒鳴りつける以外に方法を知りません。
そして、部下を怒鳴りつけたとしても事態は一向に好転せず、古川自身もすっきりするわけではありません。
彼のパワハラは、悪意によるいじめとは違い、視野狭窄や焦りによる一種の防衛反応とも読めます
古川一夫というキャラクターは、心を雁字搦めに縛られた可哀そうな中年モンスターでもあるのです。
この本の素敵なワンフレーズ
最後に、この本の中の素敵なワンフレーズを1つご紹介して終わります。
この本は泥臭い人間ドラマを描きながら、花を一輪添えるかのように随所に素敵な表現をちりばめています。
その中でたった1つだけ選ぶというのは、熟慮を要しました
私がこの本を読んで『この表現ステキ!』と思ったのは、以下の表現です。
夢見心地の中にも時折現実の寒風が吹き込む
シャイロックの子供たち 池井戸潤 文藝春秋 2008/11/10 88ページより引用
このワンフレーズは、第三章『みにくいアヒルの子』の主人公・北川愛理が恋人である三木哲夫との格差のある社内恋愛を惨めさを嚙み締めつつも謳歌しているときの独白です。
愛理の父は急逝しており、妹たちのために贅沢はできない状況です。
しかし、恋人の哲夫は資産家の御曹司で必然高価なものを身につけています。しかも、哲夫はただ実家が裕福なだけではなく、心身ともに魅力的な青年です。
素晴らしい恋人と一緒に過ごせる幸せ。しかし、お金がないという現実的な問題に時折直面する現況。
このワンフレーズは、それを無駄なく表現しています。
このワンフレーズを読むためだけでも、この本は読む価値があります
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