【書評】嘘について考えさせられた1冊!

小説

 どうも、医学生シン(@BodymakeShin)です!

 この記事では、最近読んだ小説『六人の嘘つきな大学生』の感想を書きました!

 私がこの本を読んで、嘘について考えさせられました。

あらすじ

シン
シン

まず、この本の簡単なあらすじを説明します

 浅倉秋成氏の小説『六人の噓つきな大学生』は、就活とミステリーを掛け合わせた異色の作品です。

 主な登場人物は6人の就活生と採用担当の中年男性1人で、成長著しいIT企業『スピラリンクス』の最終面接のグループディスカッションが舞台です。

 最初のスピラリンクスの最終面接の形式は、『グループディスカッションで協力して1つの議題について話し合い、その成果によって内定者を決める。内定者数に上限はなく、全員合格もあり得る』というものでした。

 それゆえ、6人の大学生たちは互いについて深く知ろうと定期的に集まる会を設け、グループディスカッション当日に備えて準備を重ねます。

 そんな日々を通して、大学生たちは互いの長所を認め合い、短所を補い合う関係に落ち着いていきます。

 就活性たちは『みんなで同僚になろう』『全員で内定を取ろう』と希望を口にします。

 しかし、突然『スピラリンクス』の採用担当者から『グループディスカッションの形式を変更し、就活生同士で話し合って1人内定者を選出する』と通達を受けてしまいます。

 全員で内定を取って春から同僚になるという夢は儚く散り、6人はたった1つしかない内定を奪い合うライバルになってしまうのです。

 そんな混沌とした状況で迎えた最終面接当日、グループディスカッションの会場に不自然な封筒が置かれています。

 中を開けてみると、そこには就活生たちの『過去の罪』を告発する写真が入っていて、グループディスカッションは怪文書飛び交う『魔女狩り裁判』の様相を呈してしまいます。

 六人の大学生が隠している罪とは何なのか、怪文書を仕込んだ『犯人』は誰なのか?!

 というのが、この本のあらすじです。

こんな人におススメ

シン
シン

この本は、緻密な伏線どんでん返しを楽しみたい方にピッタリです!

 前述の通り、この本は『就活』と『怪文書』のミステリーが主軸となっています。

 怪文書を仕込んだのは当然、内定が欲しい就活生の6人の誰かです。

 しかし、実際に怪文書を開封する前半でさえ、怪文書の犯人像がコロコロ入れ替わっています。

 疑わしい人物が切り替わるたびに、読者は振り回され、まるでジェットコースターで急降下するときのような爽快感と、お化け屋敷をこわごわ進むときのようなスリルを味わうことができます。

 また、読者から登場人物への心象も、作者の掌の上で上手く転がされています。

 まるで『メディアの風刺画』のように上手く切り取られた叙述トリックに、まんまと騙されてしまうわけです。

 通して読んだ後の『してやられた』という感覚は、悔しさでもあり楽しさでもあり、感謝でもあります。

  • 緻密なミステリーを楽しみたい方におススメ!
  • どんでん返しを楽しみたい方におススメ!

この本の一推しポイント!

 この作品にさらに深みを与えるのが、登場人物たちの嘘です。

 この本では、主要な登場人物全員が何らかの嘘をついています

 そしてその嘘は、『大人になろうとしている若者の嘘』と『大人になってしまった者の嘘』に分けることができます。

 読了後に私が考えさせられたのが、採用担当者の鴻上氏の『大人の噓』です。

シン
シン

この部分はこの作品の本筋のミステリーには直接の関係はありませんが、ネタバレには変わりないので、ネタバレが嫌な方は一度この本を読んでから戻ってきてください!

 作中で鴻上氏が大学生たちについた嘘は2つ。

 1つは、グループディスカッションの形式変更の経緯です。大学生たちには『災害による損害により、採用枠を減らさざるを得なかった』と説明していますが、実際はこの変更は最初から決まっていたことでした。

 もう1つは、鴻上氏が『スピラリンクス』の顔であるかのように振舞ったことです。実際は、鴻上氏の社歴は浅く、スピラリンクスが出しているアプリも使っていないので、嘘ではないにしても印象操作をしていました。

 しかし、この2つの嘘を『悪意あるいは怠慢による嘘』と断定してしまうのは、浅はかで幼稚に思えます。

 1つ目の嘘については、鴻上氏が知り合いから聞いた『面接官よりも就活生同士の方がダメな就活生を見抜きやすい』という趣旨の言葉から、『ある程度数が絞れたら互いに選び合わせよう』という思いつきから生まれています。

 お互いに選び合うにはある程度お互いを知っていなくてはならないので、最初に全員協力型のお題を与えて親睦を深めさせ、その後本命の課題をぶつけるというわけです。

シン
シン

この案に対して、最初に読んだときは様々なツッコみが心に浮かびました。例えば、『就活生にとって人生がかかった局面で思いつきを試すな』とか『就活生に嘘をつくのは不誠実では』とか

 しかし、だったらどうしたらよかったのかと考えると、言葉に詰まります。

 そもそもの始まりは、短時間で社の利益につながる学生を選ばなくてはならないという面接の構造にあります。

 鴻上氏は様々な制約の中で、色々考えた上であのグループディスカッションを開催したはずです。

 たしかにケチの付け所はあったかもしれませんが、全面否定できるものでもありません。実際、グループディスカッションで選出された学生は、その後スピラリンクスで活躍していることが描写されています。

 鴻上氏の2つ目の噓も同様です。鴻上氏がスピラリンクスの顔であるように振舞わなければ、きっと就活生たちは不安に思っていたでしょう。面接を円滑に進めるには必要なことでした。

 そして、これらのことは他の登場人物たちの嘘についても同じことが言えます。

 確かに嘘はいけないことだし、正直でいる方が良いに決まっています。しかし、まったく嘘をつかないで生きていくのはほとんど不可能です。

 この本は、『嘘とは何か』『嘘に良い悪いはあるのか』ということを考えるきっかけを私に与えてくれました。  

 Kindle Unlimitedで読めるので、機会があればぜひ読んでみてください!

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